第55回兵庫県写真作家協会公募展(2022年度)

審査結果

第55 回兵庫県写真作家協会公募展の審査会が、 2022 年 9 月 25 日、写真家 辰野清氏を審査委員長に迎え行われました。
出品者176 名、 出品点数 552 点 の中から各賞が決定しました。

総評:審査委員長
辰野清
コロナ禍とは思えないほどの沢山の応募があり審査にも気合が入りました。
全体としてスナップ作品が多い傾向でしたが表現の広がりは多様で、作品からは兵庫県の写真文化の成熟がひしひしと伝わるものでした。
世情によりイベントが少なくなっているため祭りなどは控えめな印象でしたが、それが反って日々の情景と深く向かい合うチャンスを頂いたようです。
人とのつながりを大切に描いたものや、一瞬の命の宿りを捉えた作品などが目立ち好ましく思えました。
風景作品も一期一会の出会いを逃さず、かつ自己の感動を加えた独創的な作風が見られたことは今後につながるものと思います。
写真環境もデジタル化が進むなかでプリント仕上げも入賞の鍵となりますが、丁寧に仕上げた作品が多くみられたことも好感視です。
兵庫県は多くの写真愛好家がひしめく地域ですが、それに相伴う充実した公募展でした。
これからも地域文化向上の足掛けとして、「兵庫県写真作家協会公募展」のさらなるご発展をお祈り申し上げます。


兵庫県知事賞

「隔離」
長谷川 祐作(大阪市城東区)

コロナ禍で在宅勤務を強いられた自宅の空間描写だが、翻弄され時代の片隅に追いやられた心象描写に強い独自性が感じられる。
掛けっぱなしの白いワイシャツに対し、閉鎖された心の不安と、窓越しに想う明日への希望を巧みに配した作風は現代の風刺画であり、まさに県知事賞に値する作品である。


兵庫県写真作家協会賞(3点)

「昭和の名残」
村上 光臣(西脇市)

時代を感じる古びた路地は、かつて栄えた飲み屋街なのだろうか。
その空間にポツンと残された真赤なパラソル。
たぶんここには過去の思い出を拭い去れない素敵な女性が住んでいるのでしょう。
人間心理を上手に引き出した素敵な表現である。


「現在っ子」
林 和枝(丹波市)

成人式での一コマだと思うが、風習に捉われない自由奔放な若者の性格を疑似描写として描いた視点がいい。
撮影対象を変化が見出しやすい露出部に絞ったことで、組み写真ならではのリズミカルなメッセージ性に繋げている。


「まち雨情」
 なかにし 宏明(伊丹市)

冷たい雨が宵闇の路地に降り続いている。
行きかう人も少なく人恋しさを模索する光景だ。
この空間で戸惑う作者の心情を、仔猫の招きで安堵へと展開させた視点がいい。
心情の隙間を上手に拾い上げた作者の力量が垣間見られる作品だ。


神戸新聞社賞

 「渓谷」
 前田 昭幸(姫路市)

緑葉に覆われた森を流れる清冽な流れと、湿潤な苔の緑に心穏やかになれる風景である。
滔々と流れる瀬音に包まれまさにこの場にいるかのような臨場感も漂っている。
霧に霞む奥行きからは源流の奥深さも感じられ画面構成も秀逸である。


兵庫県教育委員会賞

「黄昏」
関 保道(神戸市中央区)

港町の憂鬱が中央の変哲もない空間を挟み展開されている。
無造作に置かれた掛網と遠くに聞こえる潮騒の空間描写に魅了された。
露出を暗く抑えることで想像を煽る手腕も共感できた。


兵庫県芸術文化協会賞

「念う(おもう)」
 村上 元(神戸市中央区)

お寺の日常を光と陰で追い込んだインパクトのある組み写真だ。
朝夕の低い光は深い闇へと分け入り、凡庸な出合いを感動の一瞬へと変幻させている。
組むことで同じ時間枠に存在する感傷の行方も見えてくる。


サンテレビ賞

「人間模様」
石﨑 幸博(神戸市北区)

無機質な近代構造物の中を行きかう人影に、それぞれの行動パターンと想いが客観的に垣間見られ視点の面白さが目を引く。
人物の配置や“”線と点“が織りなすパターン化された形式美もオシャレ感を誘っている。


富士フイルム賞

「大地の目覚め」
長原 恭子(猪名川町)

かつての海が堆積し雄大な景観を形成するカルスト台地。
その自然が作ったモニュメントに陽光が注がれ、日本の原風景が露わにされた。
ダイナミックな石灰岩と光をとらえた陰影が印象的で、地球の息吹を感じるものだ。


兵庫県写真材料商協同組合

「残り柿」
中村 敏彦(神戸市垂水区)

日本の食文化を支えた柿の実も、今は放置され長い冬の時間に埋もれてゆく。
黒いカラスを配し画面に動感を加えたことで、儚く寂れた人里の風情が表現できた。
咄嗟の出会いに対応した構成力も見事だ。


奨励賞

「浜に棲む」
久留米 敏仁(洲本市)

画面の大部分に魚網を配した大胆な構図が目を惹きました。
点景に捉えた猫にあたる微かな光が主役の存在感をより強調しています。
こちらの様子を伺うような表情が印象的、この浜辺で元気に生き抜いてほしいものです。


「静かな刻」
 田澤 貴美子(神戸市北区)

見事に咲き誇る枝垂れ桜。躍動感のある枝振りから、力強い生命力が伝わってきます。
立ち込めた霧に差し込んだ柔らかい光が、心地よい暖かさを感じさせてくれる空気感のある作品です。


「羊の親子」 
林田 明水(市川町)

柵の向こうからこちらを伺う不安そうな目。
子どもを愛おしみ守る母親の目が心を惹きつけました。
母と子の愛情がひしひしと伝わってきます。


「ひと休み」
妹岡 実(赤穂市)

山里の穏やかな光景です。
野良仕事のあい間の小休止、観る者まで誘われる満面の笑顔が魅力的です。
この方のお人柄まで表情から窺えるようです。


「手をつなごう」
河野 栄美(姫路市)

黄色く実る稲を囲み、子どもたちが大地の恵みを讃えているかのような、のどかな楽しいワンシーンです。
カラフルな帽子や衣服も画面にリズムをつけ、子どもたちの歓声が聞こえてくるようです。


「迷宮の入り口」
北尾 玲子(西宮市)

花畑の向こうには林を抜けるとどんな世界が広がっているのでしょうか? 
現実から幻想の世界へと導かれていくような感じさえします。
ローキーに仕上げることにより、観る者の想像をより掻き立てる神秘的な作品になりました。


「飛沫を蹴って」
太田 英雄(西宮市)

画面構成に無駄がなく、光をうまく捉え一瞬の美しさが表現されています。
赤いボールがアクセントとなり、画面全体を引き締めています。
水飛沫の音まで聞こえてきそうです。


「信号待ち」
福原 加代子(宍粟市)

横断歩道を挟んで車とバイクが分かれての信号待ちです。
通勤時のシーンでしょうか?
停止線をはるかに越えたバイクの群れ。
その土地の生活習慣や風土が窺われるかのようです。
俯瞰の構図も最適、迫力のある作品になりました。


「夏の香り」
若宮 章(姫路市)

詩の表現に喩えると「抒情詩」ではなく「叙景詩」とでもいうのでしょうか?
作者の感じる夏を素直に端的に表した作品です。
大胆な組み方がかえって新鮮に映り、目を惹きました。


「想う」
川崎 陽子(神戸市北区)

まるで人間の仕草のようです。
何かにぶち当たっている人の生き様と重なり、声援を送りたくなるようなシーンです。
モノトーンでの表現が効果的でした。


「乱気」
山野 英俊(神戸市東灘区)

暗雲が立ち込め行先を暗示するかのような光景です。
微かなオレンジ色の空が希望の光なのでしょうか? 
自然の凄さを感じさせる心象的な風景作品です。


「あくび」
伊藤 裕美(神戸市西区)

獰猛なライオンのちょっと気が緩んだ表情をうまく捉えています。
タテガミが黒バックに黄金色に浮かび上がり、印象的な作品になりました。


入選(30点)

浅井美也子 荒木 伸一 石田 泰彦 石橋 美鈴
市嶋 久資 伊藤 賢治 内海 幸子 岡崎有里子
岡島 一郎 岡村佳代子 岡本 直樹 奥井 利明
川瀬 茂代 川端 昭延 小林 健二 柴田 恵子
竹内 晴行 田中  宏 谷 登志朗 千葉 国男
寺坂 好司 堂上  芳 百々 順一 野村 正志
福田あゆい 藤原 俊郎 別所 孝司 真殿 和子
道又 俊治 森田眞里子